1982年『早春(西海の口)』。
羽田智千代55歳、まだ小学校教員だった頃の作品です。
モチーフは、大町市の北、白馬村との境にある仁科三湖の一つ、木崎湖の風景です。
「西海の口」と書いて「にしうみのくち」と読みます。
父は油性インクをローラーで版木に塗って刷る方法を用いていました。
そのため、刷り終えた後は版木に油分が残らないよう丁寧に拭き取る必要があります。
しかし当時はまだその方法論が十分に確立されておらず、
自分ではきれいにしたつもりでも、後になって版木が傷み、
うまく刷れなくなってしまった作品が少なくありません。
おそらくこの作品も、たとえ版木が見つかったとしても、
当時のように刷ることは難しいでしょう。
そう考えると、この一枚は1982年という時間そのものを閉じ込めた、
貴重な作品なのかもしれません。
