智千代が国民学校の2年か3年の時。夏休みに絵を描いてくる課題があった。
世界恐慌から軍国主義へと向かう時代。物もあまりない時代。
従兄から譲り受けた編み上げの靴が嬉しくて嬉しくて。
そのうれしいい気持ちのまま一生懸命に靴を描いた。
自分でも割と上手く描けたと思った。
夏休みが明け、嬉々としてその描いた絵を持っていった。
先生にワクワクしながら見せたところ
「なんだ片っぽだけか」と一言だけであとは全く見もしなかった。
”靴は一足、片方だけでは意味がない、見る価値もない”
とでも言いたげな先生にとてもショックで憤慨した。
しかし80歳を過ぎ、大町みずえ会で、ある男の子が買ってもらったばかりのスケート靴を夢中になって描いている姿を見た。
その子は、歯の部分から一生懸命に片方だけ描き、「これでおしまい」と言って、満足そうに筆を置いた。
その姿を見て、智千代はふと思った。「ああ、あの時の自分も、間違っていなかったんだ」